2013年6月23日日曜日

頭頸部癌診療ガイドライン、頸部リンパ節転移

頭頸部癌診療ガイドライン2013年版が出たんですね。できればPDFで持ち運びたいので、Kindle版が欲しいですボタンをAmazonでクリック。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医としては最低限持つべきガイドラインか・・・。(耳鼻の機能性疾患に専門特化するなら、そこまで読まなくてもいいんでしょうが)

ちょうど知り合いの先生がガイドラインとして評価してましたが、ガイドライン作成の手順として妥当な方法を取っている、と。(詳しくは分かりません、不勉強です。)Clinical Questionも増えたみたいで、読む価値はありそうです。

個人的には、ちらっとみた
“CQ1-1. 頭頸部癌のN病期診断においてCTは有用か?”が気に入らないんですが(笑)

Clinical questionの建て方として、どの診断ツールが有用か、ならいいのに、何故CTが有用か?なのかは疑問。それに、有用か?とあるけど、“どのくらい” 有用なのかは書いてほしいなー。

自身がN病期診断、リンパ節転移の研究してるからってのはありますが。昔、自分の論文で引用した頸部リンパ節転移のメタアナリシス。知識のUpToDateしてないので少し古い論文ですが。各モダリティのROC curveが記載され、超音波、超音波下の針生検がかなり有用とされます。

Detection of lymph node metastases in head and neck cancer: a meta-analysis comparing US, USgFNAC, CT and MR imaging. 
Eur J Radiol 2007: 64:266-272. PMID 17391885


これ以降のメタだとこの辺でしょうか。上記論文はPET/CTについて文献検索してないのですが、下記のはPET/CTについて検討してます。ただ、超音波について検討してないのはどうなの・・・と思います。


Diagnostic performance of computer tomography, magnetic resonance imaging, and positron emission tomography or positron emission tomography/computer tomography for detection of metastatic lymph nodes in patients with cervical cancer: meta-analysis.
Cancer Sci. 2010;101:1471-1479. PMID 20298252

あと気になるのはこの辺。リンパ節転移があるかないかで治療方針も大きく変わります。大きく内部壊死したリンパ節とかは判断が容易ですが、小さいリンパ節の転移の有無の評価は困難。で、実際どうなの?
と比較したのがこれみたいです。全文読んでないですが、そそられます。モダリティに差はないと結論づけてます。メタ解析の元論文が気になります。研究デザインが難しそうですし。でもやってほしい、解決したい問題です。

Detection of cervical lymph node metastasis in head and neck cancer patients with clinically N0neck-a meta-analysis comparing different imaging modalities.


BMC Cancer. 2012; 12: 236



よく超音波は再現性の問題が課題にあがります。確かに、CTなどのように読み直しができないですし、Inter-operator disagreementとかIntra-operater disagreementをκ-statisticしたら、そんなにCTなど他のモダリティと差はでないんじゃないかなとも。(そういう研究は面倒でやり難いですけど)

2013年6月22日土曜日

患者視点のデータ集積

大学4年生の講義で京都大学の中山健夫先生の講義があったのでお邪魔してきた。EBMとは何か?から始まる講義で、大学でこういう講義あるんですね。
EBMとは
 ・Evidence
 ・周囲の環境
 ・患者の価値観
 ・医療者の経験
をもとに、ベターな判断をする(違ったらごめんなさい)ってことてのを触れてました。講義として大事なことを伝えてるな、と思う一方、臨床実習(ポリクリ)もしてない学生にとっては遠い雲の上のことで、実感は湧かないんじゃないだろうか・・・とも思いました。
まあ、ポリクリ生の相手してる臨床医の僕らが、EBMを伝える必要があるんでしょう。

個人的に一番インパクトがあったのは、 DIPEx-Japan の話


医療を受ける側の人々が、日々の生活の中で病気をどのように体験したかを紹介する、ってのが目的のサイトのようです。実際、病気になった人は、今後どうなるのか、どうしたらいいのか、ってのを悩まれますし、それを供する媒体があるってのは素敵です。

また、患者視点での病気との付き合いを記録したものとして闘病記があります。この闘病記などの患者視点データーベース化って話があると聞いて新鮮でした。(よく考えたら、学生時代に闘病記3冊読んで要約するってサークルで行ったけど、この一環だったのか?)

医療提供者と受給者との情報格差は果てしなく遠いですし、その間を埋めるのは大切だ(そしてこういう活動があるんだな)と再認識な90分でした。

2013年6月21日金曜日

雑記

最近の本棚が臨床試験、疫学とか統計的な分野の本に埋め尽くされる。耳鼻科の雑誌も大半を占めますが。「趣味、統計」みたいな感じ。(Clinical epidemiologyは英語で読めず、結局日本語を買ってしまった・・・)



統計学に精通すると、自分の中で生じた臨床疑問に対して、解決する方法のバリエーションが増える。より多くの疑問が解決できるんだよねー。簡単な統計で解決できるのであれば、それにこしたことはないんだけど。

データを与えられて、ストレートに証明できないけど統計学的手法を用いて疑問を解決する。そのプロセスは面白いし、その疑問が自分にとって(または社会にとって)役立つと、もっと統計に精通したいと思う。それに自分の手持ちの統計バリエーションで解決できる仮説が思いつく。




大学院生として、今は基礎研究に従事。が、現在の興味が臨床研究にあるので、自己の中での齟齬は生じたまま。


 ・血糖が高いから血糖降下療法
 ・ARDSに好中球エラスターゼ
 ・心筋梗塞後 不整脈が多いと死亡が多いから、抗不整脈薬を使う


・・・といった基礎医学の知見が、臨床では役立たないケースをみてしまうと、基礎医学だけで臨床を語ろうとするスタンスに疑念がわく。やっぱり、基礎医学での知見を、ちゃんと臨床でも再評価しようよ、ってかしてみたいんです。
(でも、臨床研究だと科研費はとれないな。やっぱ基礎基礎した研究じゃないとダメなんだろうな)

2013年6月8日土曜日

セツキシマブ、低マグネシウム

頭頸部腫瘍に対するアービタックス(抗EGFR抗体)も、結構身近になった気がします。学会でも、そろそろ一般演題ででてくるのかな。
副作用に低マグネシウム Mgがありますが、遠位尿細管のチャネル阻害によるもの、らしい。一般的には血清マグネシウムよりも尿中マグネシウムの方が身体のマグネシウム不足を反映するけど、アービタックス使用時は参考にならず。
Meta-analysis探してたら、低マグネシウムのメタもあるんですね。


Meta-analysis of incidence and risk of hypomagnesemia with cetuximab for advanced cancer
Chemotherapy. 2010:56:459-65 PMID21088398

Background:
 低Mgは副作用の一つだが、認識されず、メタ分析で頻度などを評価。
Methods:
 Pubmed, EMVASE, Cochrane, American society of clinical oncology, Web of Science
 組入基準はPhaseⅡ/Ⅲ trial, プライマリエンドポイントは低マグネシウムの発生頻度 
Results:
 Grade3-4の低Mgが5.6% (95%CI 3.0〜10.2%)
 All gradeの低Mgは36.7% (95%CI 22.0〜54.4%)



低Mgの定義は悩ましいので、ちょっとそれぞれの原著を読みたいとこですが。血清Mgのうち、Mgイオンだけが活性もってるものの、血清Mgのうち30%ぐらいはアルブミンと結合して不活性とか。血清アルブミン低値で血清Mgは低くでますが、頭頸部癌で化学療法してる方は基本低アルブミンになりがちですよね。血清Mgが身体のMg不足を本当に反映してるかは分からないので、悩ましいところ。
全文が手に入らず読めてないのでなんともですが、臨床症状のある低Mg(呼吸器症状とかlong QTとか)の割合が知りたいな・・・。


アービタックスによる低マグネシウムは蓄積性のある副作用なので、長期投与にともない増えるよう。経口マグネシウム製剤(サプリ?)は効果がないので、基本低マグネシウム出現時は、アービタックス中止+マグネシウム静脈注射。

頭頸部癌領域は、保険適応が通ってまだ浅いので、これから報告がでてくるのかな。

2013年6月7日金曜日

機内での急変

MRICの記事に「お客様の中にお医者様はいらっしゃいますか?」と呼びかけられた時の対応が記載されていた。道路上で倒れた人の対応はあったけど、まだ飛行機の出張は少ないので機内での対応はなし。



あの訴訟大国アメリカで、しかも薬も器具も十分でない機内ではミスが起きやすく、それこそ多額の賠償を覚悟しなくてはならないだろうに、なぜアメリカ人は 人助けに自ら手を挙げて、日本人ドクターはヒーローになるチャンスをみすみす見逃してしまうのか。宗教的な背景やリスクを負うことへの抵抗感の多寡など理 由はいろいろあるだろうけど、想像するに日本人ドクターは専門外には極めて自信がない、ということではないかな。MRICより

学生時代にBLS/ACLSを普及?する学生団体にいたこともあって、もし急変患者に遭遇したらどうするか?ってのは学生同士の話題になった。法律上の問題では、よく引用されるのが「よきソマリア人の法
「災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という趣旨の法律みたいです。
アメリカやカナダでは法としてある一方で、日本では同様の法がはっきりしていないので、立法化を目指した方がいいんじゃないかって話題があるんですね、wikipedia的に。

患者にとって高度な医療技術も必要だが、それと同じくらい「いざという時」にササッと診てくれる、いわゆる家庭医もやはり必要なんだと思う。因みに、過去 の医療賠償事案で、機内や緊急時の応急治療だけで訴訟になったというケースを、アメリカでも日本でも私は知らない。やはり「助けてもらった」という意識が あれば、どんな国でも訴えることなどしないのだ。(MRICより

MRICの記事では、訴訟のケースがないとありましたが、Wikipedia読むと、判例はないようですが、紛争になった件はあるようです。そういう事例が一つでもあれば、急変時に手をあげようとする人は減るよなー。

ちなみにNEJMに機内発生の急変に関する論文がありますが、600 flightに1回程度あるようです。どういう急変が多いのかとかも書いてるみたいなので、一度読んでみたいな・・・。



機内などで急変が生じた場合に手をあげる医療者が増えればいいと思う。でも、現状だと手をあげない。じゃあどういうプロセスを経れば改善できるのか?は気になるけど、この現状を改善したいと思う、改善できる立場の人って少なそうだな。
東京出張が年2回で往復4flight/year。30年医者やっても0.2回しか遭遇しないのか・・・。


2013年6月4日火曜日

VTTQを用いたリンパ節の診断

頸部のリンパ節が腫脹、という主訴で来院される患者はたくさんいます。
その多くは風邪などの自然治癒する疾患によるリンパ節腫脹ですが、時に癌などによる転移リンパ節が生じることがあります。
一般的に頸部リンパ節の評価はエコーなどのモダリティを使用して行われ、特に頸部リンパ節転移を強く疑う場合、穿刺吸引細胞診(Fine Needle Aspiration, FNA)や開放生検で組織をとって診断が行われます。

で、従来のエコーの機能に、最近、堅さを測るオプションがついたらしい。。。
(と聞いたのが多分2012年8月ぐらい)
 

今回、勤務先で使用できたのはSEIMENS社のもの。従来、硬さを測るエラストグラフィーは、エコープローベを用手的に動かして組織を圧迫して、周囲とのひずみを利用して硬さを推定する形。



新しいデバイスは、Acoustic radiation force impulseという短波?(画像のオレンジのやつ)をターゲットに向けて放ち、そのターゲットからでた横波をトラッキングして、その横波の早さで硬さを推測するらしい。VTTQ(Virtual Touch Tissue Quantification)というシステム。
*詳細は別サイトの方がいいと思います。それかSEIMENS社参照

肝臓や乳腺ではすでに報告が散在してたのですが、頸部リンパ節の評価にはなかったので、とりあえずやっとくかーとやってみました。
 
Acoustic radiation force impulse imaging for reactive and malignant/metastatic cervical lymph nodes.
Ultrasound in Medicine and Biology. Epub 2013 Apr 3.

Fujiwara T, Tomokuni J, Iwanaga K, Ooba S, Haji T. PMID:23562011



結果としてはArea under ROC curveも0.923 (95% CI, 0.842–1.000)とまあまあ。IRBの関係でProspective data collectに厳密にはならなかったのが、ちょっとネックですか、、、
機械が高いのですぐに普及とはならないでしょうが、超音波機械の進歩はすごいです。あと「Ultrasound in Medicine and Biology」のImpact factorが耳鼻科関連より高かったのは、母集団の関係で仕方ないですけど、ちょっとショックでした。



2013年6月3日月曜日

第一回 EBMワークショップ in 愛媛

先週末はEBMワークショップ in 愛媛。無事に終了しました。
EBMに関して、
 1.情報をどのように手に入れるのか
 2.手に入れた論文をどのように現場で応用するのか
 3.診断の際にどうEBMを使用するのか
といった内容でした。

今回、2.論文の現場での応用、批判的吟味では、C.difficle関連腸炎に対する便注入療法。ランダム化比較試験として試験デザインはしっかりしてて、効果もよさそう。適応患者がいればやってみてもよさそうでした。
ただ、日本での報告はなさそうで、実際に注入する便をどのように調整するのか、誰がどこで調整するのか?といった問題は残ります。自分でやるには障壁がありそうです。(本当に他に手段がなかったら手を出すかな)

情報をどのように手に入れるか?
では情報の種類(Foreground / Background question)、情報の種類(一次資料 / 二次資料)について説明のあと、Pubmed, DynaMed, UpToDateについて説明。
医療者は忙しいし、英語の壁もあるし、いかに短い時間で楽に情報を手に入れるか、ってとこが強調されてました。
個人的にMeta-analysisなどに興味があるので、漏れのない情報検索ばかりしてたので、いかに短時間でやるか、という発想は新鮮でした。